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Column

芸術の季節 – 南京・杭州にて

 

 

執筆者 山本愛子

中国 杭州に滞在する現代美術家、 山本愛子が全6回に渡り、旬なアジアのアートコラムをお届けします。


 

芸術の季節 – 南京・杭州にて

 

月1を目処にコラムを執筆する話だったが、6月分を更新できておらず、怒涛の月日が過ぎ去っていたのだと気づく。中国の5月末~6月は展覧会シーズンだ。ものすごい数の展覧会やアートイベントがあちこちで一気にオープンする。私もこの時期にいくつかの展覧会やプロジェクトに関わったので、前半/後半に分けて記事にする。前半では、この時期に私が参加した3つの展覧会を通して中国アートシーンの一片をご紹介できればと思います。

24時間美術館(南京)

まず、5月末にオープンした南京24時間美術館での展覧会“曼蒂克的写法”について紹介したい。(現在も展示中、10月30日まで)。去年末から水面下で進めていたものだ。杭州で出会ったキュレーターの宋振熙(Song Zhen Xi)氏からのお誘い。近年、彼の名を見ないことがないほど、中国で精力的に活動している若手キュレーターである。彼は一体何人いるんだという仕事っぷり、聡明でチャーミング、そして一児の父でもある。戦っている人だなあと思う。

アーティスト達と話すキュレーターの宋振熙(Song Zhen Xi)氏(右)

宋振熙氏の企画展 “曼蒂克的写法”(和訳:ロマンスのえがき方)、彼がセレクトした5名のアーティストが個展形式で展示をする。一般的な美術館とは異なり、広場にガラス張りの建物が点在していて、いつでも市民にオープンに向けられているのが特徴だ。展示オープニングではパーティーで交流を楽しみ日暮れからツアーを開催した。

古师承(Gu Shicheng)《RICH SHOP》

富と名声を虚しいロマンスと捉えた「RICH SHOP」24H営業のコンビニエンスストアをイメージした空間でハイブランドを皮肉ったパロディ商品を販売している。

 

王玮珏(Wang Wei Jie)《够了 – Enough》
全て羊毛でできており、ニードルを刺し続け羊毛を縮絨させるという労働(暴力的な)によって制作されている。この写真だと見えないのだけど奥にダブルベットがあり、ひも状のものがへその緒で、その先に赤子が浮いてるという空間。

 

王海龙(Wang Hao Long)DVD的爱

 

影(Liu Ying)《蝴蝶过沧海》 

 

山本愛子《幻影風景》

私は「現実を見据えた奥にある幻想」というコンセプトで、日々の騒がしさでかき消されてしまう自然現象に感覚を向けることを鑑賞者に促した。そこから見えてくる原始的な風景を、今回の展示では”幻影風景”と呼んだ。

 

象山芸術公社で行われた第1回浙江国際青少年アートウィーク会場の様子

南京と同時期にオープンしたのが、杭州で初めての芸術祭「第1回浙江国際青少年アートウィーク」だ。中国美術学院の卒業制作展と若手作家による芸術祭がミックスしたようなイメージである。五四運動の100周年記念企画で、3000名以上のアーティストと美大生が参加した。大規模すぎてどこから紹介したら良いかわからないので、私と同じ展示会場で私の好きな作品、そして鑑賞者からも人気があった2名のアーティストの作品を紹介する。

刘帅(Liu Shuai)《無愛想な演奏1 / Unaffectionate performance1》

 

刘帅(Liu Shuai)《無愛想な演奏1 / Unaffectionate performance1》

摩擦と振動によって音が鳴るキリギリスの羽。各キリギリスに大きさや重さの異なる銅箔を装着することで音のピッチを変えている。共鳴する習性があるため、展示会場では不規則に彼らのコーラスを聴くことができる。

 

 

刘帅(Liu Shuai)《無愛想な演奏2 / Unaffectionate performance2》

電気ウナギが金属の棒に触れた時、体内の電流によって音が生じる仕組みになっている。

 

 

刘帅(Liu Shuai)《大槐安国 – 消化から生産まで / Huai’an State – from Digestion to Production

世界各国の神の消化管をイメージして制作したもの。展示会期中、この「神の消化管」の中で実際に虫が生息する。この作品は「南柯記」という明末の中国の戯曲から着想を得て作られている。淳于棼という男が夢の中で槐安国というアリの国に迷い込む話で、広大な世界だと思っていた場所が小さなアリの巣に過ぎなかったことに夢から覚めた時に気づいた儚さや、身体と宇宙の繋がりについてをテーマにした作品である。

 

 

王天然(Wang Tianran)ハチドリの重さ / The weight of a hummingbird》

 

王天然(Wang Tianran)《ハチドリの重さ / The weight of a hummingbird》

人は死ぬと21グラムの体重を失うと言われている。ある人々は、それは魂の重さだと考える。21グラム、おそらく5枚のコインの重さ、チョコレートの重さ、またはハチドリの重さ。 人が死ぬと魂は人体を離れ、聖なる地へ行くのだろうか、それとも汚染された深淵へ行くのだろうか。記念碑のように設置されたオブジェの上面には逆さに設置された計量器。そして21グラムの磁石が磁力によって浮いている、緊張感を持って展示されていた。

 

王天然(Wang Tianran)《風と共に去りぬ / gone with the wind》

 

王天然(Wang Tianran)《風と共に去りぬ / gone with the wind》

この作品は古いベッドのフレームを使用して作られている。ベッドは人が生まれ、死んでゆく場所でもある。生死の記憶を帯びたベッドフレームたちと鏡が点在する空間の中で現実と虚像の入り混じり、実空間の構造の判断を失ってしまう。

 

山本愛子《生生不息 / Endless》

風、空気、光で景色が常に変化するような作品が作りたかった。この作品は絹にサイアノタイプで染めている。直径2m、一点吊りなので風でゆっくりと回転する。大幅の絹布に出会えたことでダイナミックな新作ができた。日本ではこの幅の絹はそうそう見つからないし、あっても高価すぎて手が出せない。作家にとって素材との出会いというのはとても大きい。また、私がこの展示に参加することになったきっかけは、アーティストであり研究室の教授の管懐賓(Guan Huai Bin)氏から、良い経験になるからとお声がけいただいたことだ。様々な環境が重なり生まれた作品に感謝している。

 

「Under the Table」会場。アパートの地下のデッドスペース。

南京、杭州の展覧会の一部を紹介させていただいた。最後の一つは、2つの大規模な展示とは異色を放ち、完全にアーティストだけで作った展覧会「Under the Table」。これも同時期に開催され、私も参加したので少し紹介したい。

この展示が生まれたきっかけは、アメリカンチャイニーズのアーティストが、彼女自身が住むアパートの地下にデッドスペースを発見し、ここで展示ができるんじゃないか?と思いついたこと。そして3ヶ月がかりで展覧会を企画した。アーティストによるアーティストの集い方は、まるで偶然できた水たまりのようである。全く形式張っていない。例えば私の場合は、真夜中、私の部屋の近くでタバコを吸っている白人2人組の男女がいた。2人は退屈そうに、でもまだ寝たくないという感じで冷たい地べたに座っている。目が合い、そのお二人の上目遣いが魅力的で私はなぜか自分から声をかけ(そんなこと滅多にしないのだが)話していくうちに流れで展示することに。その後のミーティングも、引き締まることのない妙な雰囲気で進行し、アートに対する何らかの想いだけを頼りに集まった18名で「Secret」をテーマに展示をした。

アパートの地下にはギャラリーのような照明や機材がないのはもちろん、ドアもない。まずアートに興味のないアパートの管理人を説得するところから始まる。自分たちで木の端材を拾ってきてドア変わりにしたりと0から作った展覧会。オープニングは口コミで会場が埋まる人が集まった。オープニングは盛況だったがそれ以降の作品の管理は難しい。誰が作品や機材の責任を取れるのかという不安から、参加作家は大切な作品を出展することに躊躇し、実験的な作品や複製可能な作品などが揃うことになる。すると展覧会の質が上がらないというのがネックな部分だった。しかし、0から作るからこそ全くしがらみのない自由な展示ができて、公で言語化すると問題になりそうなコンセプトの作品群が集い、まさにアンダーグラウンドを体験したのだった。

「Under the Table」オープニングの様子

 

 

 


【あとがき】

ざっくりでしたが、私の関わった3つの展覧会についてご紹介させていただきました。後半では私が参加した中国美術学院初の国際アートプロジェクトについて書きたいと思います。この記事を書いている今は、台湾にて。蒸し暑さに虫の鳴き声が滲み、梅雨なのか、午後には気まぐれに雨がふってきます。

 

筆者プロフィール

山本愛子 Aiko YAMAMOTO
作家
ウェブサイト http://aikoyamamoto.net
1991年 神奈川県生
2017年 東京藝術大学先端芸術表現科大学院修了
2018年から現在、ポーラ美術財団在外研修員として杭州に滞在中。

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