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Column

ひと息と回想

 

 

筆者 山本愛子

アジアで活動する現代美術家、 山本愛子が全6回に渡り、旬なアジアのアートコラムをお届けします。


 

第5回「ひと息と回想」

 

 

約1年間のポーラ財団の在外研修を終え、日本に帰国してきた。(杭州10ヶ月、台湾3ヶ月。)帰国して横浜の実家に戻り、1年ぶりに本当の意味でひと息をついた。私は物心がついた頃からこの家に住んでいるけれど、長く家を離れて帰ってきた時はいつもこの場所を新鮮に感じる。「この机以外とお洒落だな」「トイレこんなに小さかったけ」「この花瓶こんな模様だったんだ」来客のような気分。家族と、猫と、そして二世帯住宅で祖母も一緒に住むこの家には、至る所に染み付いた匂いや記憶、聞き慣れた足音、ガラス越しに編み物をする手、1年前と変わらず平和に響いている。変わったこともたくさんある。弟が家を出て一人暮らしをしたこと、その部屋が父のギター置き場と化していたこと、壊れかけていた蛇口が新調してあったり、ペットの猫が太っていたり。些細な変化に気づいていくうちに、来客気分は徐々に消えていき、だんだんと現実感が増していく。逆に、つい先日までの台湾の暑い日差しや、杭州の静かな湖の景色がまるで夢だったかのように遠のいていく。人というのは不思議で、自分が今いる場所が現実で、別の場所で起きている別の現実に対しては、案外簡単に臨場感が消えてしまう。昔あんなに好きでやっていたことをパッタリとやらなくなったり、絶対にこうだと思っていたことに全く執着しなくなったりというのも、環境が人を変えていく、ということが大きいのかもしれない。気候も文化も異なる地を移動するたび、外の世界が私をころっと変えてしまう感覚を知る。自分というものがいかに自分でコントロールできない無力なものかということを体感する。無力さと旅は常にセットだ。

 

 

そういった経験も踏まえ、昨今国内外で活発なアーティストインレジデンスは、アーティストが自身の表現に新たな風穴を開けるきっかけにとても良い環境だと思う。新たな人や素材との出会いが自然に生まれること。文化や言語の壁にどう向き合うか。当たり前の生活が当たり前にできないからこそ、当たり前ってなんだっただろうか?と根本的問いを考えはじめることができる。そうして日常だと思っていた場所に帰ってきたとき、それが実はへんてこなことであったり、尊いものだったということに気づくことができる。

 

 

そういうわけでここ日本から、先日までの台北国際芸術村の3ヶ月間のレジデンスを回想してまとめてみようと思う。レジデンスに参加したアーティスト目線のレビュー(日本語)が意外とネットに少なかったので、これから台北国際芸術村にレジデンスを考えているアーティストの方をはじめ、興味を持っている方や、アーティストインレジデンスって何?という方の知るきっかけになればと思う。またアーティストのみならず、キュレーターやフォトグラファーなど運営側のインターンも行われているのでそちらに興味のある方にもオススメできる場所だ。

 

ウェルカムパーティーでの自己紹介の様子 (台北国際芸術村)

 

まず台北国際芸術村のレジデンスは2箇所ある。市内中心部にある「台北国際芸術村(Taipei Artist Village 通称TAV)」と、やや郊外の「寶蔵巌国際芸術村(Treasure Hill Artist Village 通称THAV)」だ。私は後者のTHAVに申請し滞在した。どちらも毎年公募か、あるいはアーティストの滞在交換プログラムがあるようだ。日本からはBankARTなどが提携していて、毎年1組づつ、台湾のアーティストが日本へ、日本のアーティストが台湾へ行き、制作を行うというアーティストの交換プログラムが行われている。申請から滞在まで1年ほどかかった。平均2〜3ヶ月の滞在が可能だ。

 

 台北国際芸術村(TAV)

 

TAVは、THE 都市!という感じのモダンな環境。滞在部屋も立派で、広い部屋だと50人は入れそうな講義室くらいある。ダンサーの方なら部屋で稽古ができそうだ。施設内にはダンスホール、音楽室、写真用の暗室と機材一式など申請すれば使用できる。展示会場、カフェ、その他様々充実している。また都市中心部なので材料調達もしやすく移動も何かと便利。都市部でリサーチなどを行う人や施設内の設備を日常的に使用したい人はTAVが最適だと思う。

 

アーティストトーク前の様子(TAV)

 

THAVはTHE 村だ。30分あれば一通り回れる広さ。入り口にお寺があり、毎回門をくぐって中に入る度、なんだか神聖な気持ちになる。元日本軍の軍事施設だった場所で、シェルターなども残っている。(現在はギャラリーとして使用されている。)村の中にはカフェ、雑貨屋、歴史資料室、木工室(申請して機材が使える)、自作カメラ屋、ゲストホテル、台湾作家たちのスタジオ、ギャラリースペース、アーティストの住居、そして90年代から住んでいる地元住民もいる。訪れるだけで歴史や自然を感じられる場所だ。滞在部屋は私の部屋が一番広かったようだが、(H)2m*(W)1.5mの平面作品を頑張れば2〜3点同時並行で制作できるくらいの広さだった。ものすごく大きな作品を作るのは難しく、工夫が必要だ。機材や過去の滞在作家が寄付していった備品などがストックしてあり使用可能でとても助けられた。徒歩5分で市場やコンビニ、年中無休の路上屋台があり暮らしやすい。中心部までメトロで5~6駅なので不便さは感じなかった。

 

寶蔵巌国際芸術村(THAV)

 

安全面、生活面の心配は特になかった。TAV、THVAどちらもキッチン、トイレ、シャワー、洗濯機、給水所などしっかりとした設備があり、守衛さんが24時間滞在してくれている。何より運営の方々が本当にしっかりしていて驚いた。時間厳守、道具の管理、日本より几帳面!?と思うことも多々。TAV、THAV合同で定期的にミーティングやトークがあり、ウェルカムパーティー、住民とのカラオケ会(野外で笑)、また私は秋滞在だったのでお月見BBQ会を開いてくれたりと、ありがたいセッティングがたくさんあった。人との交流が自然と生まれる場所であり、かつプライベートな時間はしっかりととれる、とても良い環境だと思う。

 

Tintin patrone パフォーマンスの様子(THAV)

 

アーティストは滞在最後に展示を開催することができる(しなくても良い)。私の会期ではTAV滞在作家はTAVでグループ展、THAV滞在作家はTHAVでそれぞれの個展を企画した。パフォーマンスやワークショップも、提案すれば日程や場所を調整して運営の方のサポートの上行うことができる。同時期に滞在していたパフォーマーのアーティストは、台北国際芸術村公式Facebookなどでワークショップの告知をしたところ20名ほど集まり(台湾の遠方から来る人もいた)、彼らと一緒にパフォーマンスライブを実現するなど、現地の人たちとレジデンス施設で作品を作り上げることも可能だ。

 

張翀 個展(THAV シェルター)

 

Yasen Vasilev 個展(THAV Crossギャラリー)

 

山本愛子 個展 (THAV Frontier ギャラリー)

 

長谷川寧 (TAVギャラリーグループ展)

 

また、アーティストのみならず国内外のキュレーターのインターンも活発に行われている。アーティスト同士の交流が行われるレジデンスは多いが、若手キュレーターとアーティスト間の交流があるのは台北国際芸術村の魅力の一つだと思う。私の滞在時は、台湾、北京、マレーシア、イタリアからインターンに来ていた方がいた。今回私はTHAVで個展をさせていただいたが、その個展に関するインタビューをインターンの若手キュレーター達が自主的に作ってくれた。興味ある方は是非こちらから(英語、中国語)。こういう横のつながりができることはお互いにとって嬉しいことだ。私たちの世代がどんな未来を作っていけるだろうと、わくわくさせられる。芸術や文化を通して交流をし、互いに学び、それを作品という形でまた他の人へと届けていく。このような文化的活動の中で表現を深めていくという行為。これからも続けていきたいと改めて思った台北滞在でした。

 

 

 

 

以上、ざっくりですが、滞在して感じたこと得たことなどを共有してみました。このコラムもかなりマイペースにやらせていただいていますが、ひとまず残すところあと1回となりました。来週からは、展示のためまた少し中国上海へ行ってきます。同時期に上海ではアートフェアが行われるようなので、次回はそのあたりをコラムで触れられたらいいかなあと思っています。(が、気が変わる可能性も大です。)それではまた、どうぞお付き合いくださいませ。

 


 

筆者プロフィール

山本愛子 Aiko YAMAMOTO
作家
ウェブサイト http://aikoyamamoto.net
1991年 神奈川県生
2017年 東京藝術大学先端芸術表現科大学院修了
2018年-2019年 ポーラ美術財団在外研修員として杭州に滞在

 

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