展示レポート

展示レポート Vol.6

2018/04/27

清水が書かせていただくMeltingPotの展示レポート、今回は紙と鉛筆による作品を発表されている橋本晶子さんの個展の様子をお届けします。橋本さんは、美大予備校である御茶の水美術学院に清水が在籍していた頃の1つ上の先輩であり、武蔵野美術大学の修士課程を修了されています。

 

会場は大森駅から徒歩数分の場所にあるマンション、山王アーバンライフの10階にあるLittle Barrel Project Room。展覧会の企画・運営やアーティストのマネジメントなどを行う会社Little Barrelが、事務所の一角をアーティスト紹介のためのプロジェクトルームとして2017年11月にオープンしたスペースだそうです。

”作品展示を行いながらも、既存のスタイルにとらわれない実験的な試みを行っていきたい。そうした理由から、Little Barrelは「ギャラリー」ではなく、「プロジェクトルーム」と銘打っている。”(引用元 https://bijutsutecho.com/interview/11162/ 美術手帖 INTERVIEW-2018.1.28 【ギャラリストの新世代】Little Barrel Project Room 水田紗弥子)

 

訪れてみて分かりますが、いわゆる「ギャラリー」とは趣向を異にした空間となっていました。

 

展示スペースを含むような建物…ということでなんとなく新しくクールな建物を想像して行ったのですが、外観は白く巨大な住宅用マンションで、年季が入った団地のような佇まいが意外でした。入り口は道路に面さず建物の脇にあり、入ったところがホテルのフロントのようになっていて趣があります。築年数が1974年ということもあり全体的にレトロな雰囲気。

 

エレベーターで10階に上がると、窓のない廊下に各部屋の扉だけが面しているシンプルなつくりの空間に出ます。一昔前の集合住宅らしい感じ。

部屋の番号と部屋名だけが金属質の重そうな扉に書かれていて、となりにはインターホン。展示会場らしき案内もなければ窓もなく中の様子を垣間見ることもできないので、無断で勝手に入ってよいものか??と扉を開けるまでにちょっとドキドキ。軽くノックだけして扉を開けてみました。

中は本当にいたって普通の一般住宅用マンションの一室、という感じ。奥の部屋のスタッフの方が顔を出して「どうぞ」と声をかけてくださいました。靴を脱ぐ玄関スペース周りは人一人が通れる程度の幅で、入って左脇にある小さな低いテーブルに展示の案内などが置いてあります。振り返ると、玄関の扉の裏にまず作品が一つ展示されていました。

 

玄関と直結している1つ目の部屋は電球が吊るされた薄暗めの照明になっていて、人が4人もいればいっぱいになってしまうかも?と感じるこじんまりとしたスペースです。

正直、アートの展示というと広く明るく真っ白いホワイトキューブで派手に行うものばかりに触れてきたため、こうした場所ならではのやり方がとても新鮮で驚きました。狭いといえば狭いのですが、静かでしっとりとしていて心地よい空間でした。

1
水彩紙に鉛筆のみで描かれた、モノトーンの作品たち。絵画の手法としてよくあるように木製パネルに紙を水張りしたり額装したりといった手法を用いず、とてもシンプルな素材をそのまま展示に使用されています。どれだけ丁寧に素材を扱ったらこんな風に紙の美しさを生かしたまま作品にできるのだろうか。

2
書き手目線のお話を少し。

私と橋本さんは昔、美術予備校の日本画科に所属していました。私はその後油画科に移ったのですが、日本画科では基本的には紙の白地を生かして鉛筆や水彩絵具でモチーフを描画することを学びます。それらの素材の繊細な表現を生かすため、ベースの紙を汚さないように作業前に手は洗い、紙は折ったり傷つけたりしないように細心の注意を払ったものでした。

それと対照的に、油画科で使うキャンバスや木炭や油絵具は素材としての力がとても強く、また作業場を汚しやすい素材でもありました。少しの汚れは仕方がないもの、多少の汚れは絵具で潰せばいいか、と、私自身は油画科に移ってから段々と素材の汚れへの感覚が麻痺してきていたように思います。

今回の橋本さんの作品展示を拝見して、紙自身の色や傷つかない目地の美しさ、それらを大切に残して作品を仕上げることも作品のクオリティに大きく寄与しているのだ…と改めて学ばせていただきました。

 

ガラス器、食器、植物など、日常風景で目にするモチーフたち。それらを描画した紙が、展示する壁や空間とどのように関係するかを考え抜かれて展示されていることを感じられます。絵が写真データとして空間から四角く切り取られインターネット上を飛び回るようになった昨今ですが、橋本さんの作品は絶対的に空間と共にあるための絵であり、作品の魅力のためにも展示空間が必要なスタイルなのだと思えました。

 

少し薄暗い照明に慣れてくると、紙の白と鉛筆のトーンが空間の色から主張せずに馴染むように照明が柔らかく設定されているのかも…と感じられてきます。

透けるカーテン越しに、奥の部屋の温かい照明の光が漏れてくる様子が美しいです。

3
奥の部屋は事務所となっていて、そちらにも2点作品がありました。本棚の前に座れる場所があり、ポートフォリオと共に、橋本さんのインタビュー記事が掲載されている美術手帖が置いてありました。

窓辺の作品が印象的です。

4
1つ目の部屋もそうですが、ここを訪れる時間帯の外光の加減によって部屋の雰囲気も作品の見え方も全く違ってくるのでしょう。

 

橋本さんの作品は、モチーフを描画することで紙の向こう側にできあがる空間世界がはっきりと見えてきて、たとえ私たちの世界から見えるこちら側の表層が分断されていても向こうの世界は繋がりが広がっているのだ…ということが感じられました。

5
ボードにアクリル板?をクリップで留めるシンプルな作品保護がされています。飾らなくても、丁寧さは美しい…。

 

ポートフォリオには大判の作品の展示写真もあり、そちらは白い壁の中に作品部分にだけぽっかりと別の空間への入り口が開くように錯覚して見えるのが印象的でした。実際に見てみたい。

モチーフとその影と、空間を見つめる丁寧な目。橋本さんの作品は、素材がシンプルだからこそ、研ぎ澄まされた視点が伝わってくるように思います。

 

今回は夕刻に訪れましたが、こちらのプロジェクトルームは日中の明るい時間帯にもまた訪れてみたい場所だと感じました。空間としては小さかったので滞在したのは短い時間ではあったと思いますが、とても静かで穏やかな時間を過ごさせてもらえました。

是非またお伺いしたいと思います。

(清水悠子)

-展示レポート