展示レポート

展示レポート Vol.7

小久江峻 個展『絵画の種子』

ー絵に空を飛んでほしいー

 

4月21日、この春に東京芸大油画専攻を卒業したばかりの小久江峻さんの個展『絵画の種子』の初日に訪問してきました。

在学中に清水と同期だった小久江さんは予備校時代からの同級生でもあります。

 

昨年末よりこちらのライズギャラリーさんで連続展示の企画があり、小久江さんは他の方とのグループ展と個展を含めて4回の展示を行ってきました。

http://www.rise-gallery.com/top/top.html

 

場所は東急東横線の学芸大学駅から徒歩13分と少し離れた住宅街の中。ここへ来るのは2度目ですが、駅の周りといいギャラリーまでの道のりといい、生活感があるけれど穏やかで雰囲気がとても良い。

駅からしばし住宅街をまっすぐ南下すると、道路沿いのイオンスタイルの建物の裏にライズギャラリーはあります。

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建物入り口左側にはデザインストアが併設されています。

 

展示初日のこの日はギャラリー奥のメインエリアでレセプションパーティが行われていました。小久江さんとギャラリーオーナーとその関係者の方が数名いらっしゃいます。

作品を見つつ、作家本人からお話を聞くことができました。

 

こちらのギャラリーは入り口近くに写真のような特徴的な曲面壁のスペースがあるのですが、まずそちらに大きめの作品が1つ。

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今回の小久江さんの展示では、キャンバス木枠にそれよりも一回りサイズの小さな木枠を重ね、その上から布を張って凸型にしたキャンバスを使った作品が何点かありました。このスタイルについて詳しくは後述しますが、これがとても面白い。

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特にこちらの壁では、壁が凹んでいるのに対して作品が手前に膨らんだ形になっていて、見ているとなんだか錯覚を起こすよう。壁に落ちる影の形も、平面壁に展示した状態とは大きく異なっているはずです。

 

曲面壁エリアの向かいにはこちらの作品。

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以前に制作されていた作品に似たスタイルで、周囲に「逃がし」があります。私の言葉になってしまいますが、作品と周囲の空間との繋がりを柔らかくするための工夫、だと言えます。

気になるのは、作品の台座にしていると思われるレンガ上に左右非対称に綿が敷いてあるところ。良く見ると作品画面上にも絵具に混じって綿がくっついていたりする。

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綿の白い色がアクセントにもなっているし、理屈では言えない何かへの配慮やら優しさの表現のような。

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隣には変形していない通常のキャンバスの作品たち。他の作品たちのような「逃がし」を行わずにやってみる、というテーマがあって無変形のキャンバスをここでは使っているそうです。

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この中ではこちらの作品が一番深みが感じられていいなと思いました。奥行きがある…ような。この絵は一度描いた作品を潰すようにもう一層絵具を乗せているそうです。なるほど、だからか。

レセプションパーティの会場にもなっている奥の広い空間に移ると、まず気になったのは一番奥の壁にぽつんとある白く小さな作品。

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綺麗でちょっと寂しくて切なくて、よい…。この小さな1枚でこの壁は完成している感じがあります。少し壁から飛び出す形で展示されていたのでよくよく見てみると、ここにも壁面との間になんだかよくわからない綿があしらわれています。しかしこの、なんだかよくわからないってことがとても大切で面白い。

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理屈でなんだかよくわからない。面白いなと思う作品制作をする油画学生のほとんどが、私の理屈っぽい頭からは到底捻りだせない感覚的なものづくりをしているように感じています。

書き手の私は生活の基本がいわゆる左脳的な感じ。過去と未来を考えて計算的にスケジュールを考えて今やるべきことをする、社会人の方は大抵がそうなのではないかな?と思う考え方が基盤にあります。作品制作なら、最終形のクオリティをどのようにしたいから下地をこう扱おう、それを何日間でやろう、みたいな。

一方で、油画科の同級生と話していてよく感じたのが、彼らは「今現在の目の前の素材と身体感覚的に向き合っている」という印象です。なんとなく触った絵具が、作品の中で感覚的に心地よければ、それでよい、というように偶然を肯定していくようなスタンス。何のモチーフを表現しているのかわからないような、いわゆる抽象表現には大切な感覚なのではないかと思います。

 

それを確認したくて、小久江さんに絵を描きだす時の最初の1色目では何か計画を立てるのか?と尋ねてみたのですが、「例えばその時偶然足元に落ちていた絵具のチューブの色から」だとか、何も縛りを設けずに絵を始めるのだそうです。そこから絵の中でやり取りをしていく。

うまい写実描写以外に絵の価値というものが全く分からなかった私が、抽象表現って面白いな…と感じられるようになったのは小久江さんとの出会いが大きかったと思っています。

私の視点ですが、彼は徹底的に右脳的感覚が日常を主導しているのだと感じています。彼が制作について感覚から話す言葉を私が私の分かりやすい言葉で要約して置き換えて確認してみても、それはちょっと違ってしまっていたりする。小久江さんが言っている感覚的なものごとに対してなるべくズレた誤解をしないように汲み取りたいと思ってきましたが、同じ日本語を話しているのに言語を扱う感覚がこんなにも違うということが興味深くて面白くて、私は在学中そうしたコミュニケーションをとても楽しんでいた気がします。

 

展示の話に戻りますが、メインの空間には小久江さんが一番気に入っているという3点セットの作品がありました。

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私の色感は間違いなく真ん中の白が入ってる作品が一番綺麗でよいと訴えてきていて、でももし本人が左右の方が好きだったら申し訳ないなと思って左右の作品には言及できずにいたのですが、本人も真ん中の作品が一番気に入っているとのことで安心しました。

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今回の展示で新たに取り入れられている木枠を重ねた凸型キャンバスについて、詳細なお話を伺いました。

以前から小久江さんはキャンバスの張り方を工夫されていました。市販の張りキャンバスのようにきちんと四角く硬く布を張るのではなく、あえて柔らかく、木枠を見せたり布の耳をはみ出して残したり。このレポートの2番目の作品紹介でも触れた「逃がし」の要素のためだと思います。

しかし、本人は絵の中の絵具のやり取りに没入したいのに、絵の外縁と展示の壁との繋がりだとか絵の外側を考えなければならない瞬間が途中途中でどうしても生まれてしまい、それがストレスになっていた様子です。

そこで今回は絵の外縁に段差をつけることで、張り出した中心エリアの外周を「逃がす」形にしてみたそう。その甲斐あって、今回は制作中絵の中に没頭しやすかったそうです。物質的には飛び出しているのですが、本人の感覚では「へこんでいる」のだそう。キャンバス自体が額縁の効果を果たしているのかもしれない、と個人的には解釈できました。

 

小久江さんの制作のスタイルはシンプルに、「絵具をやり取りしていて自分が心地よいこと」を大切にされているそう。

「自分が絵に求める感覚は、風を受けて張った凧の感覚に近い気がする。」

それを発見した小久江さんは、自分の絵に一度空を飛んでほしい、と考えているそうです。めっちゃ面白い。

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実験的に作られた凧がちゃんと展示されていました。

空飛ぶ絵が実現された際には絶対に見てみたいです。

 

作品の視覚的美しさ、身体感覚的な柔らかさ、発想の面白さもあるとても充実した展示だと思いました。

小久江さんの個展『絵画の種子』は5月11日まで。

この機会に是非ご覧になってみてくださいね。

 

(清水悠子)

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