アートコラム

世界のアートマーケットと日本

小学校の図画工作から始まり、中学校での美術の時間・・・全く美術というものに触れたことのない人は少ないだろう。しかし、学校教育での「美術」と、世界のアートマーケットはだいぶ性質の異なるものである。教育と売買の場の違いなのだから当たり前なのであるが、せっかくなので、ここでは簡単にアートマーケットについて紹介したい。




2016年の世界のアートの取引額は約450億ドルである。売上はオークションとギャラリーからなり、その売り上げは半々である。

オークションマーケットにおいて、日本は1980年代、アジア圏において最も美術品を輸入していた。1990年には、世界のアートの輸入額の2/3をアジアが占めるようになっており、その8割を日本が占めていた。日本企業が世界の名画を高額で落札していた時代である。そのまま作品を所有している企業もあれば、バブル崩壊とともに売却したところもある。世界のアートマーケットにおける日本の位置づけも、変化していった。

現在欧米ではアートの取引がオークションからよりプライベートな取引に移っており、オークションのアート取引額は、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの中でアジアが40%と最も大きく、その9割を中国が占めている。中国では2000年代以降、美術館や教育機関のインフラが整う前に美術コレクターが急増したのである。欧米では、美術館やギャラリーで展示を重ねて、作品の価値を上げていくのに対し、中国はオークションによって一気にアジア現代アートの価値を世界に打ち出した。その後、アートの価値を維持していくためには美術館が必要であるということから、現在、現代アートを扱う美術館が建設中である。

アートマーケットにおいて中国が台頭してきた背景には、美術品購入を資産運用におけるリスク分散の手段として考える人が多いことが考えられる。対して日本の美術市場が小規模なのは、美術品が資産としてみなされていないからといえる。中国、台湾などでは自国の貨幣よりは名画を持っていた方がよい、という考えが根底にあるのに対し、日本では通貨の安定は勿論のこと、その背後にある国、政府、社会の安定と信頼があるといえる。良くも悪くも平和な社会であり、通貨を他のモノに変える必要がないのである。

さらにもうひとつ重要なのが税制上の課題である。香港とシンガポールは共に税率が低く、原則的にキャピタルゲインが非課税である。つまり、税率が低いから暮らしやすいし資産が増えても税金をとらないことを餌に、投資家や富裕層を呼び込んでいるのだ。美術作品を購入するだけなのであれば変わらないかもしれないが、作品の価値が上がって売却益を得た時の税金や、保管のための施設等のコストを考えると、美術品蒐集を行うにあたって、日本は不利といえる。日本人は家が小さいから美術品を買わないという説もあるが、それよりも税金や美術品に対する考え方の方が日本でアートが「流行らない」要因であろう。

アジアにおけるアートの見本市としては、アートバーゼル香港が最大級のものである。アートバーゼル香港がここまで成長した要因については、別記事で取り上げたいが、近年のアートブームにより、アートフェア東京を訪れたことのある人はいるかもしれない。しかし香港は簡単に行ける距離なので、アートに興味を持ち始めた方は、是非ともアートバーゼル香港を訪れることをお勧めする。入場料は2万円程度と高額だが、欧米の有力ギャラリーも多数出展しており、全体のスペースもアートフェア東京の4倍ほどである。Art Museumの名の通り、博物館として基本的には「保存」「収集」「展示」「教育」「研究」を主な機能とする美術館とはまた異なり、最先端のアート動向を把握することができる。

今年は行けなかったが、筆者は2017年に初めてアートバーゼル香港を訪れた。残念ながらデータを紛失してしまったので、、、様子を知りたい方は、公式HP,Instagramを覗くと良いかもしれない。

アートバーゼル香港

instagram(※リンクはアートバーゼル。#で香港のものを検索できる)

また、中国にはご存じの方も多いかもしれないが、798芸術区、という近年は観光の目玉ともなっている地区がある。ギャラリー、カフェ、個人経営雑貨店など、雑多な雰囲気である。798芸術区に関しては多くの記事があるのでそれを読んでいただければと思うが、工場跡地をアーティストがアトリエとして使いだしたことから始まる。現在は商業化が一気に進み、賃料もあがったことで、798芸術区から出ていくギャラリーもあるようだ。798芸術区からそう遠くないところに草場地区がある。こちらは著名なアーティストのアトリエもあり、798芸術区に比べて観光色の薄いものである。

IMG_6335写真は2017年に798芸術区を訪れた際のものである。休憩所として使われているスペースには、「毛主席万歳万万歳」の文字が見える。

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IMG_6321各ギャラリーも、人に対して、この天井の高さ、大規模な美術館並みである。

 

日本のアートマーケットは世界の1%未満という話はよく聞くが、その根拠を探すことさえ難しい。世界のアート市場動向を調査する欧州美術財団(TEFAF)が毎年発行しているレポートでも、日本についての記述は、1980年代のバブル期について僅かに記されている程度なのである。

一般社団法人アート東京の「日本のアート産業に関する市場調査」によると、日本国内のアート市場規模は、古美術や洋画・彫刻・現代美術などの美術品市場が2437億円であるが、TEFAFがギャラリーやオークション会社に対して調査を行っているのに対し、この調査は個人を対象に行われているものであり調査の行い方が異なるため、単純な比較をすることは好ましくないが、上述した450億ドルに対しては約4,5%となっており、それでも日本の市場は小さいことはよく分かるだろう。

 

さてここまでは、日本のアート市場が小さいという話ばかりしてきたが、最近は若手の経営者を中心にコレクターが出てきており、海外のアートマーケットからもその事実は認識され始めている。日本から世界的なコレクター、アーティストが生まれてくることを期待したい。

参照:TEFAF ART MARKET REPORT 2017,一般社団法人アート東京「日本のアート産業に関する市場調査」

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