展示レポート

展示レポート Vol.8

諏訪 葵、村上直帆 『near Phenomena』

企画:小林太陽

 

5月6日、西荻窪の中央本線画廊で行われていた展示『near Phenomena』にお伺いしてきました。清水の油画専攻の同期であった諏訪葵さんが出展されていた関係で、今回こちらの展示を知ることができました。出展作家は諏訪葵さん・村上直帆さんの2人で、諏訪さんいわく企画の小林太陽さんにお誘いいただいて今回の2人展示の形になったのだそう。

1こちらが会場の中央本線画廊。外観からしてとても面白い。予想外の雰囲気にワクワクしながら、向かって右手のガラス張りの扉を開けます。

中はとてもこじんまりとした空間のため展示全体を写真に収めることが難しかったのですが、入り口側の明るめのエリアと奥側の暗い映像エリアとに分かれている形でした。

入ってすぐの場所に、まず諏訪さんのインスタレーションが設置されていました。

2a黒、透明、濃オレンジの液体…といった視覚的要素が繋げられて組み立てられています。

私は在学中に諏訪さんの作品展示を何度か見てきているのですが、今回のキャンバスへのモノトーンのドローイングは初めて見るスタイルのものでした。

4奥の暗めのスペースには映像ディスプレイが2つと、左の映像の出力元になっている液晶の壊れたノートパソコンが一緒に設置されていました。この壊れた画面がとてもかっこいい。私には都市の夜景を上空から見下ろしたもののように見えました。

5a諏訪さんの制作では水や液体がキーになっていることが多いのですが、液晶画面も液体といえば液体が関わっている現象の一つですね。

まずは展示空間の左上に位置する映像について。白っぽいベースの画面上を黒い粒子のようなものが人為的にぐるぐる動き回る。素材の分かりにくい図像のようなパターンと、シャーレ上で砂鉄のようなものが動いているのだと判明できるパターンとがありました。

7aこちらからは見えない裏側で磁石が動き回ったり、たまに離れたりしているのでしょう。黒い粒子が引っ張られるように動いたり集まったり、磁石が離れた途端脱力したようにゆるんだりしています。

9aまりも状に集まった瞬間がなんだか気持ちよい。

諏訪さんいわくこちらの黒い粒子は砂鉄とは異なる高価な素材なのだそうですが、いい画が撮れそうだと考え制作のために用意したそうです。

 

続いて右側の映像について。透明な液体の中にゆっくりと浮かぶ濃オレンジの液体の映像なのですが、黒背景と白背景のパターンがあり、黒背景の方はまるで宇宙に浮かぶ太陽と星々かのように見えて印象的でした。

13a小学生の頃、フラスコに入った水を振ると色が変わるという理科の実験を先生が見せてくれたこと、その時の衝撃が諏訪さんの現在の制作動機の起点になっているそうです。化学実験の美しさに惹かれた彼女は、化学か美術かどちらの進路を選ぶか迷ったそう。

過去に諏訪さんの制作コンセプト文を読ませてもらった中で強く印象に残っているのは、「科学(化学?)の世界では、実験などの現象というのは1つの結論のために必要なものを取捨選択されてしまうけれど、そこで除外されてしまうような多様な現象それ自体の美しさや面白さ、そこを大切に着目していきたい」といった内容でした。正しく要約しきれているかは分かりませんが、諏訪さんが最終的に美術の方を選択した理由にはそのような視点があるようです。

最近の諏訪さんの制作と表象については、東京都美術館のとびラープロジェクトの方々によるより詳細なインタビュー記事が存在していますので、紹介させていただきます。

http://tobira-project.info/blog/2017_suwa.html

 

暗い映像エリアから振り返って明るい入り口側のエリアに目を向けると、今回は1点だけ展示されていた村上直帆さんの作品が正面に見えました。

16所々に文字が書かれているのも見え、どこかの土地の地図であるかのような印象。表面の質感が多様で面白かったです。どんなことが込められているのか、制作についてお話を伺ってみたかった。

 

ここで入り口側に戻り、最初に紹介した諏訪さんのインスタレーションについて。

17透明な液体が溜められた細長い大きな水槽の両側2ヵ所に、濃度の高そうな赤っぽい液体が非常にゆっくりポタリポタリと滴っていきます。水面に当たって軽く沈んだあと、一度水面に浮かび、また水底に向けて沈んでいく液体の動きが不規則で面白く、じっと眺めていても飽きない魅力がありました。その水槽を片側から拡大撮影している映像が水槽の下部に同時にディスプレイされています。

18aバラバラに動く液体の粒が時々連なって、縦に糸状に伸びる瞬間もありました。

単純に見ていてきれい、かっこいい、面白い。それに加えてその裏側にはたくさんの考えや事象が込められてもいるので、流れていくものたちを眺めながら話を聞いたり推測したり、無限に味わえる要素があります。

 

最後は、その向かい側のエリアへ。

20壁には今回の展示のコンセプト文と、入り口側にもあったものと似たドローイングと液体インスタレーション、そして棚はまるで実験室のような趣で、ガラス器の作品が並んでいます。

21こちらの赤い液体は先ほどのものとまた異なった現象を起こしていて、上から覗き込んでみると本人いわく「腸みたい」でちょっと気持ち悪い。この液体がどういう力の因果でずっと左向きにだけ流れていくのだろう、と考えてみたりしたのですが、その答えが見つかっても見つからなくても作品にとっては正解なのだと思います。

22a棚の作品群は販売も可能な形として考えて作られているそうですが、また質感の違う黒い液体(固体?)がクールでかっこいい。ガラス器という素材自体の厚みや魅力も感じさせられます。

じっくりたくさんお話をさせてもらえたことで会場を出る頃には日が落ちてしまっていたのですが、暗くなった外からの様子も素敵だったので最後に載せておきます。

24こちらの中央本線画廊は現代アート寄りの前衛的な展示企画を中心に行われている様子で、室内の構造も趣もとても面白かった。映像展示のスペース奥がバーカウンターのようだったので、飲食物の提供を行うイベントなども行っているのでしょう。

これまで踏み入ることのなかった西荻窪というエリアを初めて訪れる機会となった今回なのですが、落ち着いて穏やかでじっくり思索をするのに向いているような街の印象で、こういう場所での現代美術の活動の一端を見られたことがなんだか隠れ家的で新鮮でした。

スペースとしては小さいけれど、若い人が自分たちの意思で動かしている美術の場所、と感じられてワクワクしました。

今後の展示も是非チェックしていきたいと思います。

 

(清水悠子)

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