展示レポート

展示レポート Vol.9

2018/08/01

やましたあつこ 林もえ 5月の個展レポート

5月26日に、以前にお邪魔した浅草橋のマキイマサルファインアーツへやましたあつこさんの個展「In the flower garden」を見に行ってきました。2階では同時開催の林もえさんの個展「眺めのよい部屋」が開催されていました。5月のまるごとほぼ一ヶ月間を使った個展で、期間があるため同じ方が幾度か足を運んでくださったとやましたさんは話していました。

マキイマサルファインアーツのホームページ

http://www.makiimasaru.com/mmfa/

浅草橋駅から近く、相変わらずアクセスがよいのが嬉しいところです。

 

まずは1階のやましたあつこさんの「In the flower garden」から。

やましたさんは自身の内側にある物語のイメージを多数の軽やかな絵に起こし、展示空間全体の白い壁にバランスよく点在させて場所そのものを心地よい絵にしてしまう…そんなスタイルで制作されているアーティストです。

atsuko_yamashita1やましたさんの作品は、白い背景に赤い髪と青い髪の女の子が登場する物語の風景がよく描かれます。赤い花が描かれているのも近頃よく見かけます。

今回の展示では画面全体を色で埋めている作品と、菱形の模様のようなモチーフが新たに登場しているのが印象的でした。

atsuko_yamashita2こちらは私が一番好きだった作品。写真よりももっとすごく色が綺麗で、深みがありました。やましたさん本人が言うには、苦しかった絵、だそうです。だから重みがあって好きだったのかもしれない。

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atsuko_yamashita4そして展示空間の一番奥に、今回の展示の一番の目玉だと思われる巨大なキャンバス作品がありました。白い網目を描いているのか黄土色の菱形の集合を描いているのかどちらともとれるような不思議な画面で、他の小作品とはテイストが違っています。具体的なシーンでも無さそうですが、絵の四辺の菱形の色味が違っていて額縁代わりの縁取りのようでもあり、絵の中にちょっとだけ奥行きをつくるための床や壁や天井を描いているようにも感じられました。菱形の向きが絵の四辺に沿っているからかな。不思議。

こうした大きな作品が1つでもドーンと存在していると、やっぱり展示空間の充実度合いが違う。狭さの制約がある日常生活の空間から離れた自由さ、夢を感じられるように思います。

atsuko_yamashita5こちらは絵と配置とが良いな…と思った部分。花を咥えた女の子の軽やかさ、ちょっと得意げな表情が可愛らしい。

atsuko_yamashita6今回はポストカードや作品集、マグカップなどのグッズが充実していました。作品を手軽に日常に取り入れてもらいやすい試み。良いですね。

 

続いて、2階で行われている林もえさんの個展「眺めのよい部屋」の様子です。

まず感じたのは「整っているな」という印象でした。

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moe_hayashi3市販の張りキャンバスのような真四角の定型のキャンバスの形をあえて崩したようなスタイルの作家さんを見かけることがちらほらあるのですが、そうした作品では例えば布をも立体素材のようにしてふんわりと膨らみをつけて張ったり、布を斜めに張ったり、布の端を木枠の裏に折り込まずにはみ出させたりすることがあります。キャンバスを立体作品のように考え、空間への配置の仕方も工夫して、絵の内容を見やすいように人の視線の高さに置くという展示セオリーを気にせずリズムや動きをつけていることもあります。

林さんの作品は、絵を描くベースとして定型である白い下塗りがされていない生の布を使い、布の端の耳をはみ出した形が基礎となっていました。

1階で見たやましたさんが作品の形や配置に動きをつけるタイプだったこともあり、林さんの作品をパッと見た瞬間にはまず似たような「定型への問い」を持っている作家さんなのだと感じました。

しかし、そう考えてみると、耳のはみ出し方の幅がとてもきれいに整っている。絵の配置の高さも基本的に整えられている。大きなアクションの派手さやインパクトで見せるのではない林さんなりのやり方で、それでも素材には問いとこだわりを持ち、きちんと丁寧に制作されているのだな、そんな風に好感を持てました。

moe_hayahsi4画材屋で買えるようなキャンバス布は、基本的に麻布に白い塗料を塗ってあり、すぐに油絵具やアクリル絵具で絵が描きやすいようになっています。生の布にそのまま絵具を塗ると油分や水分がすぐに吸い込まれて滲んで広がってしまったり、絵具を構成している素材が布を傷めてしまって数十年数百年も絵が同じ状態を保てなくなったりします。布の目地が邪魔で細かい絵が描きにくかったりする、そんな問題もこれまでの絵画の歴史の中で開発されてきた地塗りの塗料が解決してくれます。

林さんの作品は生の恐らく綿布に近い布をきちんと張った上で、あえてその絵具の滲み、筆と布の質感を生かしたり、ほんのり透ける布の軽やかさも制作に使われている、そんな印象を受けました。

moe_hayashi5こちらの右の作品は、ほんのりと木枠が透けて見えます。連続するように同じサイズの2作品が近い距離にくっついて並べられていましたが、左の絵が白い色で画面をワーッと塗りこめているのに対し、右の絵の透けた軽やかさが際立って見えて良いな、と思います。

moe_hayashi6家がモチーフになっているこちらの小さな作品は色味が多くて可愛らしい印象でした。

moe_hayashi7こちらは林さんのポートフォリオの作品なのですが、個人的にものすごくグッと来たのでご紹介。どんな場所でも見かける生活風景。生きていれば大して気にならなくなる日常風景。シャンプーや洗顔料って時にはパッケージに惹かれたり、買うときは色々感じたりもするのですが、家の定位置に置いて数日たてばもう見慣れた生活風景になってしまいますよね。私はパッと見た時のこの絵の綺麗さに加えてそんなことを考えてしまい、そんな暮らしの一角を切り取った視点にとても惹かれました。素材がパラフィン紙に油彩となっていますが、そちらも透ける素材ですし、是非とも実物を展示で拝見したかったな、と思いました。

居心地がよくつい長居してしまうような空間のお2人の展示を見に来て、私はここのところ悩みや不安事でなんだか苦しかった胸のつかえがとれたようでした。「呼吸ができた」、そんな感じがしました。

とても良いタイミングで見に行くことができ、改めて絵の力…実物のある空間で生で作品を見て、何か感じたり考えたりすることの癒しを実感することができました。その場所に行って、見ること。インターネット上で作品画像だけを見ることの何倍もの得られる体験があるし、絵はやっぱりただの色データや情報ではない、人の体の五感と共にあるのだな…と感じることができました。

自分の五感と心の声と対話する、そんな穏やかな時間を過ごせるような絵画の展示空間に、皆さんもぜひ足を運んでみてくださいね。

(清水悠子)




今後の展示情報

林もえさんTwitter

10月に大阪で展示があるそうです。

 

やましたあつこさんTwitter

現在、銀座にあるWALK IN BAR MODにてちょこっと作品展示中だそうです。↓
https://twitter.com/siatsuko/status/1012215992129241088?s=21
また、来年1月には今回展示のあったマキイマサルファインアーツにて、個展が開かれるそうです。

 

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