展示レポート

展示レポート Vol.10

時間のかたち 見崎彰広 新作展

こんにちは。清水です。

今回は、一風変わった版画・鉛筆ドローイング作家の見崎彰広さんをご紹介したいと思います。

 

8月4日、日本橋の不忍画廊へ「時間のかたち 見崎彰広 新作展」を見に行ってきました。

見崎彰広さんは東京芸大の日本画専攻を卒業された後、リトグラフという手法の版画作品と、鉛筆によるドローイング作品とを並行して制作されています。

私が美術予備校、ふなばし美術学院の日本画科に所属していた頃、見崎さんは日本画科の学生講師をされていました。

 

他にあまり類を見ない独特の作風がとても面白いので、1人でも多くの方にぜひ見ていただきたい。

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黒。はっきりとした黒が印象的かと思います。

基本的にモノトーンなので、人によっては地味だな、暗いな、と感じられるかもしれません。しかしその制作スタイルやスタンスがなんとも面白い。

私が今回の展示でまず感心して釘付けになってしまったのがこちらの作品。

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何に惚れ惚れしてしまったのかというと…こちらの作品、なんと鉛筆のみで描かれているんです。

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デジタルイラストレーションなんかではクリック1つで塗れてしまうような黒のベタ塗りですが、この漆黒の面を手作業で鉛筆でこのクオリティに仕上げている仕事の精度の高さ、ストイックさに思わず笑みがこぼれてしまいます。

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絵の端のキレも素晴らしいです。さすがにここはマスキング(紙の地のまま綺麗に残したいところをテープや紙を貼って保護しておく処理)を行っているそう。

 

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天使がモチーフのこちらの作品も鉛筆によるドローイング。どんな手つきで描かれているのか想像がつかない点描のようなホワッとしたタッチで、中央の天使が光っているように見えます。

 

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こちらの一連の鉛筆ドローイングについて、黒い面の精度があまりに高いので「(黒いところの作業は)気が狂いそうですね」とお話ししたところ、見崎さんとしては中央のモチーフ部分に最も神経を使う、とのことでした。こうして画面の多くを色面で構成していると鑑賞者の見るべきところはモチーフ描写の部分だけになるからだそうです。なるほど。

黒い部分は鉛筆の動きを縦向きに統一することで、基本的に上からあたる光でタッチの筋が見えにくいように工夫されているそう。

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惚れ惚れします、ホント。

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展示の告知の際に見崎さんがこちらの『シュート』という作品を引用して「昔バスケ部だった方、ぜひ見にいらして下さい。私ひとりでディフェンスしております。」と書かれていたのが印象的で面白かったです。作品も魅力的ですが、見崎さん自身が落ち着いていてユーモラスで話していてとても面白い方です。

小学生頃から誰しもが慣れ親しむような、鉛筆という何ら特別ではない道具で表現をしていきたいと考えていらっしゃるそう。とあるテレビゲームでいうところの初期装備の武器、木の棒でずっと冒険を進めていくような感覚。そんなところに鉛筆表現の面白さを感じているそうです。

言ってしまえばただの鉛筆が、技術次第でここまでのクオリティの表現になる。面白いですね…。

 

ここまでご紹介した額装なしの木製パネルの作品は全て鉛筆ドローイングですが、ここからは版画作品のご紹介。記事の冒頭の方の写真のものも、額がある作品はリトグラフの版画作品です。

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リトグラフについて簡単にご紹介します。

版画には凸版画、凹版画など使用する版の構造によっていくつか種類がありますが、リトグラフは「平版画」と呼ばれる版種です。木の板を削って残った出っ張りにインクをつける木版画のような凸版、銅板に傷をつけた凹みにインクをつめる銅版画のような凹版、ステンシルのように穴の開いた版の上から塗ったインクを下に落とすシルクスクリーンなどの孔版、とありますが、平版は版に立体的な手は加えず、簡単に言えば水と油が互いをはじき合う性質を利用した版画技法です。

元々は石板を用いたことがリトグラフという名前の語源となっています。現代ではアルミ板にクレヨンや油性ボールペンなどの油性の画材で絵を描き、色々加工を加えたあと版に水を塗ると、水がはじかれた油性の描画部分にだけローラーで油性インクを乗せることができ、それを紙に押し当てることでイメージを刷ることができます。他の版画と異なり、彫ったりする版画特有の技術を必要とせずに絵描きが絵を描いたそのままのタッチを版画にすることができます。

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カラフルに多色のインクも使うことができるリトグラフですが、見崎さんは黒のみを使って鉛筆ドローイングと見た目の印象が近しい作品を制作されています。

 

私がご紹介したいのはこちらの雪景色の作品。

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雪が降り積もる窓辺のイメージで、可愛らしい画面です。こちら、色んな角度からじっと観察してみると、黒く見えるインクの中に少しだけ種類の違いがあるのが見えました。

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写真で伝わるでしょうか。右上の光が当たっている部分をよく見ると、外側の窓枠の黒は青っぽく光を反射し、窓の中の黒は照りの少ない赤っぽい?漆黒で、その2種類の黒に境目があることが分かります。

黒いインクを置く前に工夫を加えてあるそうです。物質の作品ならではの生で見た質感の深さ、そんな細かな工夫を発見できたことが嬉しかったり楽しかったり。

 

シンプルな白黒の画面だからこそ、その内容にはとてもこだわって丁寧に制作されているのが印象的です。シンプルだけれど一つ一つの作品に重みと充実感があります。
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黒の中にこんなにもいろんな表情があるんですね…。愛着を感じられます。

ボローニャ国際絵本原画展に入選もされている見崎さんは詩とドローイングで構成した小さな本も制作・販売されていて、そちらもちょっと切ない雰囲気が魅力的です。

今後の活動もとても楽しみです。

(清水悠子)

 

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見崎さんは現在、9月25日まで兵庫県のグループ展に参加されているそうです。お近くに行かれる方はぜひチェックしてみてくださいね。

 

G.araiの絵本原画展

「物語のかけら」

2018年9月20日(木)~9月25日(火)

11:00~18:00(最終日17:00)

ギャラリーアライ www.gallery-arai.com/

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