作家リレーインタビュー

作家リレーインタビュー Vol.7

作家リレーインタビュー第7弾は、松尾ほなみさんから紹介いただいた、長田沙央梨さんです。

長田沙央梨ウェブサイト:https://www.saorinagata.net/

「なごりおしい」2018陶

「なごりおしい」2018陶



展示会風景 2018

展示会風景 2018



長田さんは、アクセサリーデザインの専門学校を卒業後、愛知県立芸術大学の彫刻専攻、東京芸術大学大学院の彫刻専攻を修了し、現在は愛知県立芸術大学で彫刻専攻の教育研究指導員をされています。

普段は名古屋を拠点に活動されていますが、ちょうど東京に展示を見に来る予定があったということで、時間を割いていただき、インタビューさせていただきました。事前に作品を直に拝見することはできなかったので、ポートフォリオを送っていただき、HPや過去展示の論評を見ながらのインタビューとなりました。

 

河口:今日は貴重なお時間割いていただいてありがとうございます。早速ですがインタビューに入りたいと思います。近年の制作のテーマについてお聞かせいただけますか。

長田:植物や動物のリズム、形の形態の面白さに魅力を感じています。私は平面作品と立体作品を行き来しているので、彫刻で表したい形の面白さと同時に、色のリズムも最近は重要なテーマとなってきています。

身近な風景の中にある植物、動物、そういったものの中から面白いと思った形を選び取って、自分の中で心地よいリズムに変換していくことで作品を生んでいく。それがテーマといえるか分からないですが、気を遣っている部分です。

 

―:「心地いい」というのは、ひとつキーワードになっているのかなと思います。それは自分自身が選び取るものだけではなく、見る人に対しても感じて欲しい部分ですか?

長田:そうですね。攻撃性や社会性といった重いテーマは私の中には全くなくて、初めて私の作品を見る人が、空気が和らいでいくような、透明感のあるような、くもりがない、安らぎのある空気感を作りたいと思います。

 

―:ポートフォリオを送っていただいて、展示空間構成をすごく考えられていると感じました。作品同士が会話しているといいますか。作品は、一個単位で物事を考えているのでしょうか。あるいは、ひとつの世界感をつくるための付属物として考えてらっしゃるのですか。

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作品として自立するということはもちろんなので、個別にも考えます。しかし作品同士がどう響き合って、そのまわりの空気がどう動いていくか、空間が私にとっては大事になってきます。ですから、会場の下見は欠かせないですし、その会場に合う作品にしたいので、毎回ほぼ新作になってしまうんですよね。なかなか過去作が出てこないです。ホワイトキューブ、茶室、民家、いろんな場所で展示をやってきましたが、ごたいついた空間、生活環のある空間こそやりがいがあると感じています。そういうところで挑戦させてもらって、難しくはあるけれども、日常にすっと溶け込んでいくような空間を作りたいという気持ちがあります。ホワイトキューブはやりやすいけれど、非日常的な空間が出来上がってしまっているので、日常に近い空間でいかに作品を作るかということが最近の私の興味のあるところです。

 

―:なるほど。そうなった場合、少し話は現実的なところに向かいますが、作品を買いたい人がいた場合どのようにするのでしょうか。「その場」のための作品ということに非常に重きを置かれている中で作品は売り物になるのでしょうか。あるいは、ここで永久展示するものとして考えていらっしゃるのか。

買いたいという方もいらっしゃって、中には譲った作品もありますが、やはりその場所で見て欲しいという気持ちが強いです。実際に、制作した現地でそのまま引き取っていただいた作品もあります。

全く違う場所で展示したいから購入させてほしい、と言われた場合は、その方がどういった風に私の作品を捉えてくれているかをお話しさせていただいています。おこがましいようですが、ひとつ返事で、売ります、という風にはいかないです。欲しいと言ってくださる気持ちは本当にありがたいので、その方と会話をして、作品を理解してくださる方であればいいところに飾ってくれるだろうと思って作品を託しています。

 

―:学部時代は松かさの片鱗で工業製品を部分的に覆う作品を作っていらしゃったようですね。近年の作品とは随分傾向が異なるように感じるのですが、どのような経過をたどって今の作品があるのでしょうか。

長田:松かさは学部卒業時に大きい作品を出して、修了制作でも大きい鳥を作成したのが最後の作品です。
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松かさを使って制作していたのは、愛知県芸の環境が大きいです。そこら辺に松かさが落ちていて、雨が降ると傘を閉じて、晴れると開いたりするんですよ。それは空気の乾燥度合で繊維がひっぱられて変化しているんですけど、呼吸しているように思えて、その植物のエネルギーに興味が湧いてきて、題材として使えないかと考えたんです。「棲みつくpine cone」というタイトルを最初つけたんですが、蜘蛛とか虫が石の下に住み着いているように、一度人の手を離れた道具や既製品に、生命力のあるものが住み着いているイメージでした。その後、「鳥の羽根は魚の鱗が進化したもの」という話を聞き、松かさの鱗片で鳥を作ってみたいなぁと思い、最終的には松かさだけを素材として使用して、鳥という具体化されたモチーフを作る方へと向かっていきました。

近年の作品ということに関しては、とにかく何か変えたかったんですね。同じ場所にいると、これでいいだろう、という風に落ち着いてしまう気がして。ものづくりの出発点として、私はジュエリーを最初専門学校で学んでいて、身近な植物や動物をモチーフにしていました。またそういうことをやりたい気持ちを持ちつつも、彫刻を学ぶとなかなかそこに戻れない自分がいて、どうしたら、がらっと気持ちを変えて制作できるか、と思って、愛知でこもっていた環境から、一変して大学院は東京芸大の彫刻科へと進みました。学校を変えて、仲間も変えて、今の作品はそこから、です。

 

―:環境の変化というのは大きな転機だったんですね。

長田:はい、また転機となった作品という意味では、その時期に「ぶぶんのかたち」という陶器の作品を作り始めたんです。

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―:なぜ陶という素材へ転換されたのですか。

長田:それまで大学で木彫、石彫、金属、それから松ぼっくり(笑)など、様々な素材に触れてきました。石や木には、それ自体に生命力がもともとある。それらで立体作品を作るというのは、カービング、削っていく作業なんです。それよりも量をつけていって形が生まれてくる方がイメージしやすいですね。肉をつけていくような感覚に近くて、作っていくごとに生命力を感じられるというか。手で触れている、というのは重要で、あったかい素材なんですよね。

また、それまで専門学校や大学学部では、素材の色を活かすことをしてきて色を使うことを我慢している面もありました。陶で形成したものに、釉薬で色を塗るという作業を通して、形に加えて色の組み合わせが作品に加わり、心地よいリズム作る、という自分がやりたかったことに作品が繋がっていきました。

「ぶぶんのかたち」は小さな作品ですが、形・色・に加えてサイズという要素も加わり、日常の中で見つけた面白い形を抽象化させる作業でした。専門学生時代ジュエリーの作品で具体的なものを作成していたのを、学部時代はコンセプトの強い作品を作成していて、そこから「ぶぶんのかたち」の制作を通して一度作品を抽象化させる行為を通して、今、もう一度今の植物が主にモチーフとなる具体作品だけれども単純な形に置き換える、という作風になりました。

素材という点では、油彩も扱うようになりました。平面作品も作っていて、最初はアクリルだったんですが、この2年くらいで油彩を始めるようになりました。油の質感ってメディウムとして自立してきて、彫刻している感覚に近いんです。盛り上げるとか、筆のストロークで表情が残ってくる、というのがしっくりきて、粘土に触るような感覚に近い。手跡が分かって魅力的な素材だと思います。

 

―:これまでに話の中では出てきましたが、美大入学前は専門学校でアクセサリーデザインを学ばれていますね。どこから美術に興味を持たれたのでしょうか。

長田:専門学生でジュエリーをやっていたころは、ジュエリーデザイナーになりたいなという夢を持っていました。でも専門学校の授業で、石膏像や鳥の剥製を描いたり、デッサンをやった時に、それが美術系のはじめての勉強で、すごく楽しかったんです。デッサンをもっとしてみたい、というのが最初のきっかけで、就職するより、もっと美術の本格的なことを基礎から学びたいと思い、美大へ行くことにしました。そこから彫刻を選んだのは、ジュエリーも小さい彫刻なんです。蝋を削って、型を業者の人に鋳造してもらって金属で戻ってくる。掘ったり削ったりする作業が彫刻的でその感覚がすごく楽しいと思っていたので、いろんな立体作品に触れることがしてみたいと思ったからです。

 

―:美大でも工芸科はあるけど、そこを選ばずに彫刻という選択をしたのは、アクセサリーを作っている時から、ジュエリーを彫刻作品として捉えていた、ということなんですね。

長田:はい、あとは、私はスポーツが大好きで、彫刻ってすごく大変なんです。美術予備校に見学に行ったときに、彫刻の学生が腕まくりして額にタオルまいたりしている、それがかっこよくて、私もあんな風に過ごしたいという憧れもありました(笑)

ジュエリー制作では、もちろん体力は必要なんですが、ひとつの机で終わる作業をしていたので、全身を使って、というのがすごく新鮮でキラキラ見えたんです。

 

―:アートに限らず影響を受けたクリエイターはいますか?

長田:皆川明さんというファッションデザイナーです。ミナぺルホネン(http://www.mina-perhonen.jp/)というブランドを作られている方で、その服に出会ったのが18くらいの時でした。到底買えるような値段ではなかったんですが、古着屋で見つけて、ちょっと値が張ったけど買いました。

ミナペルホネンで一番好きなのが店舗です。お店の構成の仕方がほんとに素敵で、見せ方ひとつひとつ、照明ひとつとっても芸術的。ラックもすべて手作りだったりとか、商品である服と同じような感覚で店舗も隅々まで構成されていて、それがため息がでるほどすごいなと常々思っています。

生活というものをすごく考えていて、どうしたら心地のいい空間でお客さんが作品(商品)を見てくれるか、ということにすごく配慮されていて、店舗ごとによって全然内装は違うけれど、すべての店舗で追及されています。お店だけ見に行って、元気をもらいに行ったりします。

 

そこから影響を受けている私としては、簡単な作品でありたい、と思います。展示に何度も足を運んでくださり、作品を好きだと言ってくださる方々の中には、ファッションが好きだったり、何かしらこだわりのある人が多くいらっしゃるので、私のこだわりを汲んでもらっているとは感じています。

私は美術がすごく好きで、現代美術も西洋美術も、日本美術も東洋美術もどの時代のどの分野も、それぞれ非常に魅力的に感じます。そういう意味で私自身も、ニュートラルでいたいと思っています。自分がやれることと自分が見ていいな、と思うことって違っていて、自分がやれることは、マジョリティとマイノリティーの中間。アートという枠にはめずに広く見た時の、現代美術のように楽しむためにはある程度の知識を必要とするマイノリティーなもの、それからジュエリーといったメジャーで分かりやいもの、両方勉強してきた身としては、真ん中にいたいと思います。

たとえ見る人の2割だったとしても気付いてくれる人は私のこだわりを汲み取ってくれる、一方で、子供たちやお年寄りの方、美術のことを何も知らない人も、素直に無邪気に楽しんでくれる、というのが目標地点なので、そこに近づきたいです。

 

―:現在は、ジュエリーから彫刻、絵画と様々な形で作品を展開されています。それぞれどのように使い分けているのでしょうか。

長田:同じ比率で考えています。立体を引き立たせるための絵画でもないし、絵画を引き立たせるための立体でもない。お互いが自立していてほしいですし、同じ空間で、同じ比率で感じて欲しいです。

自分が彫刻家なのかは分からないですね、美術家ではあるけれども。

空間をつくる。それが一番にあって、それに必要なことがたまたま立体だろうとレリーフだろうと平面だろうと、それはたまたまそれが良かったというだけのことです。私の作品を見た人が平面と捉えるのか、立体と捉えるのか、人によって違うと思うけど、自由に考えてもらえればいいと思います。

 

―:ジュエリーとなると、途端に用途のあるものになると思うんですが。それについてはいかがですか?

長田:そうですね、用途のある、商業的なものを最初学んでそこからスパっと立ち退いて、今は用途の無いものを作っています。最近はアクセサリーは作っていないです。

ジュエリーは値段設定がきっちり見えてくるんです。だから作りやすいし、売りやすい。でも自分がものを作るのは、そういうところとは離れていて、自分の心地よさ、自分が見たいものに対しての制作過程の楽しさ、周りから自由に評価いただけること、それらがモチベーションに繋がったりするので、今は値段のことは考えていたくないです。あとから、欲しいと言われたら値段はつけるけれど、今は別々ものとして考えてやっています。

とはいっても、作家としてやってくには作品でお金を得ていくことは必要なので、もっと柔軟に商業的な意味あいを持たせてもいいとは思うんですが。まだそこに気持ちがいかないので、今は商業的な考えは遮断しています。でもきっと自分の中で、どちらもやりたくなる時期が、そのうち自然とやってくるのだと思います。(笑)

 

―:今後どのような作品展開を考えていらっしゃいますか。もしくは今挑戦されていることなどありましたらお聞かせください。

長田:「自分が見たいもの」に近づくということ。見たい風景があって、なにかが一緒にいてくれている気がするという気配、怖い意味ではなくて、ユーモラスな存在。モチーフが日常にいてくれているような、ホッとするような感覚を表現しようとしています。

彫刻を勉強し始めた頃は、制作における好きなものと、オシャレ等の楽しみに対する好きが分断していたのが最近は近づいてきている感じがします。日常がスムーズに流れて、作っていても違和感がなくなってきました。いい流れできていると思うので、作品制作はこのまま、続いていけたらいいのかなという気がしています。

今も研究指導員という立場で大学にはいますが、大学から卒業した今、自分の作品を見返していくと、アクセサリーを作っていた頃がなんのしがらみもなく評価も気にしていなくて、そこにもう一度戻ってきている感じがあります。最近の作品は溶接など、専門学校時代に使っていた技法も組み合わせて使っています。一巡りして原点に戻ってこられた感じがするので、これから自分の見たいものを具体的に作品として増やしていくことが、まずはやっていきたいことです。

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―:いろいろなことを学んできていらっしゃるので、これからの作品は、より面白く展開していきそうです。今回は日程上作品見てからのインタビューが出来ませんでしたが、名古屋も東京から近いので、是非展示の際に伺いたいと思います。本日はありがとうございました。

 

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