展示レポート

植田爽介個展「Diving into the Perceptual Sea」レポート

涼しさの増してきた11月1日、植田爽介(うえた そうすけ)さんの初個展が開催されている北千住のアートセンター「BUoY」へ行ってきました。

北千住駅の仲町口から線路に沿うように住宅地を南にしばらく進んで行くと、太い道路に面したところにBUoYの入り口がありました。基本的には演劇に使われている施設とのことで、扉のない入り口を入ってすぐの階段のところに演劇は地下、植田さんの個展は階段上、と案内がありました。

2階に上がるところからまず一般的な白壁の展示ギャラリーとはおおよそ異なる様相を呈した建物の内部に衝撃を受けます。

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扉で仕切られずに繋がった広い1つの空間。なかなかに広く開放的です。

大きく3つのエリアに分けることができ、そのうち一つはカフェのスペースとなっています。作品を見て回る前に空間の面白さで気持ちが昂ってしまいました。

こちらのスペースは元々ボウリング場だったそうで、壁や床にその要素を残しつつ、普段は演劇の練習場などに使っているそうです。上の写真の右側、カラフルな作品の並ぶエリアの床の線はボウリングのレーンの跡だそう。

私が植田さんの作品について他の作家にない魅力を感じている重要な点は、その色感の美しさ、視覚的強さです。視覚的美しさに加え、思考の量、練られたコンセプトの強度も持ち合わせ、評価されて然るべきアーティストの1人だと考えています。そうした点で植田さんらしさを感じて目を引いた右側のカラフルなエリアが気になりましたが、作品の展開に順序があるそうなので向かって左側の部屋から見てゆきます。

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開いていましたが、恐らく扉。面白い。

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向かって左の部屋に入ります。作品の鑑賞に至る前に、近付くまでの周囲の環境が良い意味で非常に気になる。なんだか冒険感があります。

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『刻の忘れ物 (Still Life)』(2018年)

綺麗に並列されている向かって左のものは立体作品、右はその立体作品を撮影したイメージをリトグラフで平面に刷ったものです。

世界最大級のトカゲであり絶滅危惧種でもあるコモドオオトカゲの生態への関心から、次いで大きいとされるミズオオトカゲの皮を入手して、それらの生息する東南アジアの島々を彷彿とさせるような配置に電子部品を縫い付けた作品とのことです。

ピンク色の皮の色がリトグラフの方ではより毒々しく。手足が欠け磔にされたかのような姿には何だか痛々しさや悲しさを感じます。冒頭で見えた隣の広いエリアにはこちらのトカゲの版を用いてカラフルに展開した作品群がありますが、パッと見のイメージが格好良くてあまり気にならないそちらの作品群の裏側の出発点にこうした重さや毒々しさが隠されていることが皮肉のようで格好良いですね。

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こちらの部屋の全体はこのような様子。次はトカゲの作品の向かいにある白い作品へ。

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『Just the way your are(L), (R)』(2017年)

白い正方形のフワフワの毛の中に電子基板が埋め込まれている。私がスピッツのCDの中で唯一手元に持っているベストアルバムのジャケットを思い出しました。植田さんはスロヴァキアへ留学に行かれていますが、その中で立ち寄った街の上空図に沿って基盤が配置してあるそうです。こちらはウサギ9匹分の毛皮を繋ぎ合わせてあるそう。

次はこちらの部屋の一番奥、今回の個展のメインビジュアルにもなっている大きな熊の毛皮の作品が置かれているエリアに入ります。

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作品を中心に、部屋の左右の壁に平面の展示があります。植田さんの所属する大学院でシカゴ大学との交換レジデンスプログラムがあり、シカゴに赴いた経験をベースにした作品です。熊に向かって右手の写真は香川県で成果展を行った時のものだそうです。

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『Chicago Maps (on the origin of the country)』(2018年)

身体感覚的に作品を捉えると、痛みを感じる表現です。動物の皮膚に基板が縫い付けられている。既に死んでいる生き物の毛皮は人類が数多の製品に使ってきたものですし、もうただの物質と言えばそうなのですが、感覚を開いて鑑賞すると痛覚に来るものがあるように感じます。

人間文化がテクノロジーを得ると共に奪ってきた動物たちの命への悲哀のようなものが、植田さんの作品表現の裏側にはあるのかもしれない。と、コンセプト文でも言及されない要素を想像しますが、果たして真実はどうなのでしょう。

シカゴを訪れた経験、その都市の成り立ちについてのリサーチを元にした作品。シカゴという名前は先住民の言葉で「強き者」を意味するというニュアンス、そしてシカゴを開拓した創始者の毛皮商人の存在から、素材としてクマを選んだそうです。

日本には熊皮を鞣している工場が無いとのことで、日本のヒグマの皮をアメリカで鞣し、日本に逆輸入したものを使用。シカゴの地図をプロジェクションで投影し、建物の配置の通りに電子基板を配置。この作品についてはシカゴの高層ビルの高さの比率も正確に投影して基板を付けているそうです。

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制作風景。

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裏側の様子。毛皮の裏側はシカゴの都市の地中としてイメージして作られているそうです。基本的にボルトとナットで留め、場所によっては皮が厚くボルトが通らないため、針と糸を用いて縫い付けてあります。

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建物の高さを投影してあるとのことで、横から撮った図。なんとなく、砂煙に巻かれた都市の景色のように見えます。

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印象的だったエピソードはこちらの部分について。基本的にシカゴの都市を理屈的に正確に投影した作品ですが、シカゴで一番大きな噴水を見た時の植田さんの感動という個人的な体験・感覚をカラフルな配線に投影したのだそうです。理知的で感覚や感情の見えにくい植田さんの制作スタイルの中の、控え目な感動の表現に何だか可愛らしさを感じました。

こうして電子部品を用いた作品をじっくり見た後だと、この建物の床に固着したネジも何だか関連付いて見えてくるのが面白い。

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気になっていたカラフルなエリアへ。奥の壁には植田さんの作品画像のスライドショーがプロジェクションされています。

手前の6作品は、先ほどのトカゲの作品のリトグラフの版を様々な色展開で刷ったもの。版は合計3つあるそうですが、2つだけ使ったり1つだけ使ったりと手法を変えることでバリエーションを出しています。展示されていない他のパターンも見せていただけました。

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植田さん自身は右から二つ目の鮮やかな黄色を使ったイメージが好きだそうで、そちらは売約も付いたとのこと。

版を作ればこうして色味や重ね方を変えることでいくらでも作品に変化を付けることができ、予想と違う出方をすることもある。版画の最大の面白さはそこにあると考えています。

プロジェクションの壁の左手前の壁に貼られた縦長の作品。

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こちらはヤギの皮に黒の単色のインクでイメージを刷っています。

続いて向かいの壁の大きな作品。

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『Trace Element (Pig)』(2017年)

今回の個展の中で一番衝撃を受けたのはこちらの作品でした。

過去絶滅の危機に瀕したハンガリー原産のマンガリッツァという品種の豚は、人が食すようになったことで飼育が盛んになり頭数が回復したのだそうです。調べてみると、現在ではハンガリーの「食べられる国宝」として様々なメディアで取り上げられている様子。

スロヴァキア留学中にマンガリッツァ豚と出会い、その実態に興味を持ち作品の題材にされました。この豚の特徴である巻き毛を取り分けて様々な場所に配置し、腐敗する様子を写真に撮って版を作り、なんとその毛から抽出した色でイメージを刷ったのだそうです。

こんなにも鮮やかでカラフルな色は、当然のように人工のインクで刷っているものだと思い込んでいました。にわかに信じられません。毛を置く場所で、環境の影響で、こんなにも多様な色が生み出されるのですね…。

今回の植田さんの個展には山縣青矢さんの手によるコンセプト文が添えられています。その中に植田さんの愛読書であるマーク・トウェインの『人間とは何か』にある人間機械論、外部の環境が人間の行動を決定している、とする考えが紹介されていました。

人も豚も、環境によって生かされている。抗えない無意識の部分は多分にあると思います。それでも、それを知った上で、植田さんは自分の力で世界を捉え直そうと試みている。そうした姿勢を見て取ることができました。

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植田さんご本人と共に。

最後に。プロジェクションで展開されていた画像もどれも格好良くて見ていただきたいものばかりでしたが、あまりに枚数が多くなってしまうため、植田さんの紹介写真をプロジェクション前で撮ろうとした過程で面白かったものを少しご紹介。

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鮮明なイメージが衣服の柄のようにはっきり投影されていくのがとても面白い。来場した方もここに立つことで面白い写真をいくらでも撮って無限に楽しめる、エンターテイメントのような展示空間の演出が非日常的で良いですね。

(清水悠子)




 

植田爽介さん オフィシャルウェブサイトはこちら https://sosukeueta-art.jimdo.com/biography/jp/

【今後の展示情報】2019年3月まで毎月展示の予定が決まっているそうです。是非ご覧になってみてください。

シブヤスタイル vol.12 2018年11月27日~12月9日 西部渋谷店 B館(東京)

Sequence 10 2018年12月18日~24日 高松市美術館2階 一般展示室(香川)

第62回 東京藝術大学 卒業・修了制作展 2019年1月28日~2月3日 東京藝術大学(東京)

Group Exhibition 2019年2月8日~3月3日 EUKARYOTE(東京)

KUMA EXHIBITION 2019 2019年3月22日~24日 Spiral Garden & Hall(東京)

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